Memories 5-3/5
思い出(5)-3/
友達はいっぱい出来たが、特に仲が良かった2人の内の1人が、当銘由市だ。
うちの母は、1円もくれたことがないが、由市はいつも何円か持っていたので、僕は諸見小学校の真ん前にあった貸本屋に由市と一緒に行き、シャーロックホームズがいかに優れた探偵かを力説すると、由市は借りるが、字が多く絵が少ないので、すぐに、”マーちゃん、あとで話して”、と僕に貸すので、その日家に持ち帰って、全部読んだ後、翌日由市に、シャーロック・ホームズの冒険を話すと、由市は楽しそうに聞くのだった。
こうして僕は、そこにあるシャーロック・ホームズや、アルセーヌ・ルパンの小説などは、全部由市に借りてもらい、そのかわり毎日、シャーロック・ホームズや、アルセーヌ・ルパンの話を由市に聞かせるのだった。
また、登下校の途中に由市のお母さんが、小さな10人も入れば満席のそば屋をしていた。
由市が、”マーちゃん、うちでそばを食べるか?”、と言うので、”うん”、と言ってそこに入ると、大阪弁なまりのお母さんが、”あんたが級長のマーちゃんねー”、と言ってそばを2つ出してくれた。
すると由市は、早速3枚肉から口に運んだが、すぐに赤い肉だけかみちぎり、油と皮は、ペッと吐き出すので、僕はびっくり仰天してしまった。
でも食べて初めて分かったが、そのうまいもんでもなく、特に油と皮の部分は脂っこくて、由市が吐き捨てるのも、何となく分かった。
でも肉の赤い部分は、滅多に口に入れられるもんでもない、あこがれの食べ物で、いつも皮と油の部分だけのいわば、2枚肉をわが家では、肉と言って母ちゃんは上手においしく使っていた。
2枚肉がわが家のごちそうだったのだ。
でも、あこがれの3枚肉だ。
ちょいちょい由市に誘われて、由市のお母さんのそば屋に行ったが、僕は3枚肉も汁もすべてきれいに食べたので、油と皮は吐き捨てるし、汁もほとんど残す由市に比べ、”マーちゃんはえらいねー、由市、お前もマーちゃんみたいに食べたら頭も良くなるのに”、なんて褒められ、いつも大歓迎してくれるのだった。
でも、いつも由市はそれを無視して、逆に僕は内心”こいつ親を子分みたいに使うなー、すごい奴だ”、と変に感心していた。
2学期の終わり頃、修学旅行で北部の名護市に行くことになった。
僕は初めて母から10円貰った。
2泊3日の修学旅行で、風呂屋に行くと言うのだった。
それで僕は、”20円いるよ”、と言ったが、母は、”10円で一回行けば充分だ”、と言うのだ。
確かに、いつも月曜日と、木曜日の週に2回だったので、2日に1回で充分で、僕は納得した。
するとたくさんのお母さん達が見送りに来て、由市のお母さんもいる。
由市は既に100円もらっていたが、”もっと貰っている子がいる”、とか言って、”500円頂戴”、などとぶーぶー言っている。
そしたらお母さんは500円追加したのだ。
僕は、余りに不思議な光景を見て、びっくりだったけど、本気で由市と友達で良かった、と思った。
旅行の間、いつも由市と一緒だったが、いつも由市はアイスキャンデーも、お菓子も、僕の分まで買うので、まるで天国を旅しているようだった。
しかも、ここは名護だ。
あの小学3年で、生まれて初めて好きになった、正岡明美が転校して行った名護市なんだ。
それで2日目の午後は全部自由行動だったので、由市と2人で、正岡明美と言う頭がよくて、きれいで、お金持ちの子がいる、と言って探しまわったが、見つからなかった。
せめて、名護の小学校の名前でも聞いておけばよかったが、まったくそういうことも知らないし、当たりばったりに探し回って、最後に由市がある映画館で、”マーちゃん、すごい映画をやってるぞ”、と指したのが、洋画の何か探検の物語で、早速由市が2人分のお金を払い、それはそれは面白い洋画を見て、アメリカ人はすごいなーと感心した、楽しい1日だった。
それきり正岡明美に会ったことはない。
僕の初恋はこうして終わったが、1年だけ同じクラスだったきれいな子で、残念ながら顔も覚えていないのだ。
名護市の、大きなヒンプンがじゅまると言う木の近くの、大きな旅館に泊まったのだった。
でも僕は、いつも由市と一緒で、何度も何度も、由市におごられ、おいしい思いをし、可愛い初恋の人も探し回ったし、すごい冒険の物語も見たし、お風呂には頭の痛いふりをして旅館の裏の井戸で一人水を浴びて済まし、貴重な財産は10円できたし、本当に夢のような2泊3日の旅だった。